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最高裁判所第三小法廷 昭和31年(ク)273号 決定

抗告人 平野増吉 外二名

相手方 建設大臣 外一名

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人等の負担とする。

理由

最高裁判所が抗告に関して裁判権をもつのは、訴訟法において特に最高裁判所に抗告を申し立てることを許した場合に限られ、民事事件については、民訴四一九条ノ二に定められている抗告のみが右の場合にあたる。よつて抗告人等の抗告理由について判断するに、論旨は、原決定が、土地収用法による事業認定に対する訴訟をもつて民衆訴訟ではないとしたのをもつて憲法三二条に違反すると主張するのである。日本国憲法施行後、裁判所はすべての法律上の争訟を裁判すべきこと所論のとおりであるが、現行の制度の下においては、特定の者の具体的な法律関係につき紛争の存する場合においてのみ裁判所に判断を求めることができるものであること、当裁判所がさきに判示したとおりである(昭和二七年一〇月八日大法廷判決、判例集六巻九号民七八三頁)。いわゆる民衆訴訟は、このような当事者の具体的な法律関係に関係がないにかかわらず、法律の規定によつて特に訴訟提起を開いている場合の訴訟であつて、かかる訴訟は憲法の要請に基くものではなく、従つて、ある法律が民衆訴訟を規定していないからといつて違憲の問題を生ずる余地はない。論旨は土地収用法は事業認定に対する民衆訴訟を規定していると主張するけれども、右の規定を所論のように解すべきかどうかは土地収用法の解釈の問題であつて憲法解釈の問題ではない。のみならず、右の規定をどのような趣旨に解するにしても、原決定は、抗告人平野増吉、同上田金一郎は本件起業地内に家屋を賃借居住し、同神山鷹次は所有していることを推認できるものとして、本案訴訟を適法とし、本件執行停止申請の許否について判断をしているのであるから、論旨の採ることができないことは一層明白である。

つぎに論旨は、原決定が本件停止決定の申請を拒否すべきものとしたのは、抗告人等の基本的人権を侵すものであり憲法違反であると論ずるのであるが、要するに行政事件訴訟特例法一〇条二項の「処分の執行に因り生ずべき償うことのできない損害を避けるため緊急の必要があると認めるとき」の解釈の問題であつて憲法解釈の問題ではない。のみならず、処分の執行を停止しなくても、若し本案訴訟の判決で本件事業認定を違法と判断した場合は、抗告人等としては救済を得る途がないではないのであるから、執行停止決定をしなかつたことによつて基本的人権を侵したとはいえず、違憲の問題を生ずる余地はない。

その他本件抗告理由は、前記民訴四一九条の二の理由に該らないから、本件抗告はこれを棄却すべきものとし、抗告費用は抗告人等の負担とすべきものとし、主文のとおり決定する。

昭和三一年一二月一一日

(裁判官 島保 河村又介 小林俊三 垂水克己)

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